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肌ざわり / 尾辻克彦

突然ですが告白します。
僕、赤瀬川原平が好きです。
もう知ってますか、そうですか。

まぁ、ずーっと前から周りからさんざん言われているけど、最近になってようやく自分でも気付きはじめました。というか気付く事を認めるようになったっていうか。これまでは「あ、僕、赤瀬川原平好きなんです」って云うときの照れみたいなものがあったかもしれない。「俺はもうちょっとヤングだぜ」みたいな気負いがあったんだと思う。だけどもはや「老人力」すら芽生えはじめている最近になっては、もう好きなんだからいいんじゃないかもはや、という開き直りとか素直とか丸出しとか、そんな気分です。

そりゃあ、ずっと前から続けている写真ネタとか、最近NEUT.でチャレンジした紙幣ネタでドキドキしたりとか、なんかしら気付くと赤瀬川氏のやってきた事にシンパシーを感じるっていうのも当然ある。だけどそれだけじゃなくて、こうして徒然と文を書いていて、とくに最近、文章について一生懸命考えれば考えるほど、コトバの使い方だったり選び方だったり展開だったり、そういうところも非常に影響を受けているような気がするのです。

「あーあるある」みたいなところを突いてきたり、組み合わせたりするのが上手くて、なんだかとてもニクくて。
『トマソン』とかの定番はともかく『新解さんの謎』単行本の後半に入ってるエッセイ「紙がみの消息」なんかは隠れた名エッセイで、紙に接するグラフィックデザイナー必読の書、だと思う。


で、尾辻克彦です。

芸術家・赤瀬川原平の文章と、文学家・尾辻克彦の文章は何処が違うんだろう、と思いつつ、なんだか最近自分も文章書いてみようかなぁとかいう勝手な思いがぼんやりとあったので、いつの間にか文庫で復活してた『肌ざわり』を、参考にと思って読みました。

ついこないだASYLの入り口入ってすぐの本棚の中段の左に、尾辻克彦の本が、この『肌ざわり』も含めてハードカバー版がかなり渋い中古状態で数冊置いてあるのを見かけたし、なんとその晩はウチの近所のBOOK OFFの105円コーナーでも『肌ざわり』が帯も灼けた状態で売られているのを見た。何故かその日は急に尾辻日和だったのです。

で、『肌ざわり』。尾辻でも赤瀬川でも、名前を変えて同じ人が書いているから文章は例の雰囲気。文章の話し相手がちょっと変わったくらい。そんな印象。なんだけど。

僕にとって衝撃的だったのは、この物語の主題が「床屋」だった事。

これもまた一般的には知られていない事実なのだけど、実は大学卒業したての頃、なんだか急に映画が撮りたくなって、だけど結果的になにもしていないんだけど、アタマの中では映画の構想がものすごい練られていたのです。ヒデチカにはちょっと話したかな。だから一般的に知られる訳が無いんだけど。
その時の映画の構想が「床屋をテーマにした映画を撮る」だったのです。床屋のあの独特の雰囲気、儀式めいた作業段取り、髪型を介したコミュニケーションのやりとり、とか、これはこれで書くと長くなるんだけど僕は床屋というか、散髪に結構思い入れがあるので、それを元に構想をあれこれ考えていたのだけど、いつのまにかそんな話も忘れてしまって、10年以上経ってしまった。

そこでこの『肌ざわり』で床屋ですよ。赤瀬川原平に、また先越されてます。とっくの昔に越されてます。

何やっても前に居るワケで。
僕は勝手に時間差でシンクロ気分を味わせてもらってますが。

だからそろそろ、そんな赤瀬川原平を好きなんだ、って堂々と告白してもいいんじゃないかと思うのです。

今日の一冊:肌ざわり / 尾辻克彦

posted by tsukada at 02 / 12 / 2005  02:25
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